midashi_v.gif 「遺跡の階段」

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 詩人・中野嘉一に鈴屋を読んだ「遺跡の階段」という詩がある。
『詩と批評 暦象』48集(1959年5月25日刊)
※同誌の発行所は「暦象誌社」松阪市殿町1256番地、発行人は中野氏。

「  遺跡の階段
 箱梯子 それをはずしてしまうと
 誰も昇って行けない あの一室
 そこには かつて
  学者ひとりの世界があった
 くらい光りが しづかに
 室を包んでいた
 つまれた版木の間で
 強い蝙蝠の種族が 昨日まで
 生きのびていた

 ある意味で
 ここは有名な遺跡になった
 箱梯子がぎしぎし揺れる
 参観人が昇ってくる
 あの学者の書いた色紙や短冊が 壁に向かって
 菖蒲やあやめの花のように
 輝き始めるときがある
 この部屋にはもう蝙蝠のすむくらがりがない
 この遺跡にはもう管理人が要らない」



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