本居宣長が自分の家の歴史をまとめた本。この書名を有する本は3冊ある。
一つは、『別本家の昔物語』と清造が仮称した1冊で、「本居の事」に始まり御師、祠堂、定紋など10箇条を事項別に記載。第7項「当家代々宅地の事」に天明4年(1784)正月28日の奥書がある。
その後も加筆、更に書き継ぐ予定であったが、『古事記伝』全巻終業した直後の寛政10年(1798)6月20日(草稿本巻首識語)、新たに同一書名で本居家の遠祖より宣長に及ぶ歴代当主とその妻子について詳述する手記を起筆した。 用紙は『続草庵集玉箒』稿本紙背を使用。更に浄書本は巻末に「本居といふ氏の事」「略系図」を添えて同年7月20日成立(奥書)。これが現在一般に言われる『家の昔物語』である。
文中「君のかたじけなき御めぐみの蔭にさへかくれぬれば、いさゝか先祖のしなにも、立ちかへりぬるうへに、物まなびの力にて、あまたの書どもかきあらはして」 という一節が当時の心境をよく著している。巻末の「吾家の先祖世々の事ども宣長なほ別にくはしくしるしおけるを此一巻はそれが中の大かた也」 は材料として『本居氏系図』を使用したことを示唆する。
記述は伝聞や憶測を努めて廃し正確、平明で、本居家の歴史としてのみならず、松坂商人の消長の具体例としても貴重である。特に宣長自身の項は簡にして要を得た自伝で、『玉勝間』と共に伝記研究でまず拠るべき資料である。
本書に結実した家に対する宣長の関心の萌芽は既に10代の頃から見られる。諸書を博捜し、機会を見ては縁の地である大阿坂村、美杉村多気などに足を運び、また京の橋本経亮や南部や会津からの訪問者への質問など調査は生涯に及び、本書脱稿後も、安田道卓からの報告をもとに『本居右京武秀之事実』(寛政12年4月3日成)を書いている。本居へ復姓、平氏の名乗り等もこの調査の産物である。
自筆本は、本居宣長記念館所蔵。
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『本居氏系図』
(C) 本居宣長記念館
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