◇  本居記念館は現在地で #017

 12月22日、記念館の在り方を考える意見交換会が開かれました。
 この日は、次の3つのテーマで意見交換を行いました。
 
 1,旧宅や本居宣長記念館の位置や施設について
 2,本居宣長記念館の展示、活動について
 3,これからの本居宣長の顕彰は、何を目指すべきか。また、何が必要か。
 
 つまり、ハードと、ソフトと、ヴィジョンです。
 
 まず 第1部では、理事長と私による主催者側からの説明。
 休憩をはさんで、第2部は 意見交換会です。
 実は、記念館開館以来43年、鈴屋遺蹟保存会が出来てから104年間、このような皆さんの意見を聞く会は一度も開催されなかったのです。
初の試みです。
 やり方も、私にとっては全くの未知の方法です。
 単にマイクを回すのではなく、ポストイットを4色用意して、3つのテーマと、それ以外や複合するテーマを書いてもらい、休憩の時に貼っていただく。

 第2部では、理事長と私がそれらをテーマ別に分けて、紹介しながら、回答したり、さらに質問や意見を会場から頂きながら展開しました。
 この方法は、評議員からの提案で、三重県立総合博物館のスタッフにアドバイスいただきました。
 結果は、小さな声、また輝くような提案を頂き、主催者側としては大成功だったと思います。


 さて、話し合いの大前提として私は
 
  《動かない》 と言う選択は 《動かさない》
 
という提案を行いました。
 
 実は、記念館では20年来、移転や増築、新築という話が出ては消え、また出てを繰り返してきたのです。
 それに追い打ちを掛けるように、松坂城跡国史跡指定があって、記念館の場外移転が話題として急浮上してきたのです。
 すべての問題は、この移転、新築問題を抜きにしては考えられないのです。
 
 さて、記念館は公益財団法人鈴屋遺蹟保存会が管理運営していますが、その理事会、評議員会でもこの問題は話し合われてきました。
 短期的なスパン(5年から10年位)での移転新築はない。これは了解が得られました。
 では長期的なスパンではどうか。
 これは全員一致とはいかないので、最終結論は、市民や利用者の思いを聞くことで決めようということになりました。
 
 当日は、私個人の見解というより思いを出すのは躊躇したのですが、20年に及ぶ議論や提案の経過を見てきた者として、具体的な問題を明らかにした方が前に進めるというアドバイスを頂き、発言することにしました。
 
 結論を誘導するような説明だったかもしれませんが、会場の意見は、根幹のところ私の思いと共通するものでした。

 ○ 本居宣長旧宅を、土地が広いからといって、関係のない場所に移転しないで
   ほしい。
 ○ もとの場所という意見もあるが、国特別史跡を町の中に移したらその保存や
   利用によって共同体は壊される。
 ○ 旧宅を管理する記念館だけを城外移転するなどもってのほか。現に管理施設
   から話された魚町の春庭宅は、魚町の子どもたちが守ってくれているが、
   一般にはなかなか公開も出来ず、まるで朽ちるのを待つかのようだ。
 ○ 今の旧宅の場所は防災上も最適地。
 ○ 現在地で、百年以上皆に親しまれてきたのだから、動かす必要はない。
 ○ 記念館や旧宅の場所は文化の、また松阪観光の拠点として格好の場所である。




 これらの討議のあとに理事長から、
 「移転はせずに、現在地で、事業を継続、展開していってよろしいか」
 と確認の問いかけがあり、満場一致で決したのです。
 
 その5日後、12月27日の中日新聞には、
 「芭蕉記念館外転へ、スペースは4倍に」
という記事が出ました。
 
 伊賀市にある芭蕉記念館は1959年の建築で、延べ床面積は320uです。
 本居記念館は、1970年建築で、延べ床面積は約1,000uです。
 上野城跡内にあるために改築などの制約があった点は、本居記念館と同じです。 
 管理、運営も公益財団法人が行うという点で共通していますが、根本的なところでの違いがあります。
 それは芭蕉記念館が、収蔵史料は財団のもので建物が市の所有であり、
 本居記念館は、収蔵資料が市の所蔵で、建物が財団なのです。
 報道によれば、伊賀市立図書館を改修し記念館とすること。
 館運営は市の直営とすることが報じられました。
 
 図らずも、同じ時期に、同じ三重県内で全く逆の判断が下されたのです。
 
 「本居記念館は現在地で」 
 これはその会議を報じた夕刊三重新聞の見出しです。
 
 22日の聴衆の中には、小学生や中学生の姿も見えました。
 「移転はしない」というその日に決まった方針が、
 彼ら、また彼女たちへの最良のプレゼントとなるようにがんばりたいと思います。
 
 今の場所で、何が出来るか、何を為すべきか。
 これから、私たちのチャレンジが始まります。
 
 ご支援をお願いいたします。


 
P.S.
◇ 英語文化圏の人にも宣長の魅力とおもしろさを
 
 この日には、移転新築問題以外にもたくさんの提案やご質問をいただきました。
 それらについても、この欄で紹介したり、実行したりしていきます。
 まず一つ紹介しておきましょう。

 参加してくれた津の中学生は、その日家に帰ってから、
 記念館の入り口に掲示する英語による案内文を作成してくれました。
 今の記念館では、外国の方への対応が充分出来ないということを私が発言したことを受けて、一宣長ファンとして、外国の方にこの宣長の魅力が伝わらないのは残念だと、
英語で書いてくれたのです。
 年明けには、記念館入り口に掲出しますので、ぜひご覧になって下さい。

 
◇ 秘蔵写真で見る、旧宅と記念館の歩み

 当日、私が準備した「本居宣長旧宅と本居宣長記念館の歩み」は、
新春、このホームページにアップします。珍しい写真も入っていますよ。
 楽しみにしていて下さい。

 



2013.12.27 

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