今展示室で公開している賀茂真淵像は、従来の真淵像とはずいぶん感じが違います。
二つの真淵像を見比べてください。

円山応震の描いた真淵像

千蔭賛の真淵像
この変わった真淵像には、 文化3年の橘千蔭の賛が添えてあります。
橘千蔭、加藤千蔭ですが、真淵の高弟です。
だから、この真淵像も似ていないと一蹴することはできません。
この像は、国文学者簗瀬一雄先生の旧蔵品です。ご子息から寄贈されました。
賛の歌は、
「もろこしの人に見せばやみ吉野の吉野の山の山桜花」
という真淵の有名な歌です。
実は、宣長にもよく似た歌があります。
「もろこしの人に見せばや日の本の花の盛りのみ吉野の山」
宝暦10年、「松阪の一夜」が宝暦13年ですから、
真淵と対面する3年前の作です。
この歌を見るたびに、歌の難しさを思います。
更に更に、他の人にもよく似た歌がある。
それについては拙稿「宣長と画賛」で触れました。
山桜の美しさが、高麗唐土(朝鮮半島や中国)と対比されるものであることは、
四十四歳自画自賛像の歌、
「めづらしきこまもろこしの花よりも飽かぬ色香は桜なりけり」
からもわかります。
賛
「もろこしのひとにみせばやみよしののよしののやまのやまさくらばな
県居大人は山城賀茂成助県主の裔にて承久三年
山城より来りて遠江敷知郡浜名岡部の賀茂の御
社の祝と為れる師久主より七代に当りて掛まくも恐
きかも
東照らす大御神の将軍に従奉
依て厚く賞させ給ひし政定主より五代の孫なり彼
大神の五継の御跡に御座す田安の殿に
皇御国の書の道の博士として延享三季より
奉ぬ宝暦十年仕を退給ひ明和六年十
月三十日になも齢七十余三にして身罷給ぬ
文化三年正月二十七日、橘千蔭謹書」