中文館書店『古事記伝』全巻が寄贈されました


 中文館書店『古事記伝』と言っても、ほとんどの方はご存じないと思います。
 「版本」(目録刊記、明治3年4月2刻・永田調兵衛)を
「原本縮写復刻」した本です。
 昭和18年4月15日に第1巻刊行。
 第1巻には『訂正古訓古事記』・『古事記伝目録』を、
 第2巻には『古事記伝首巻』と巻1から6までを収め、
 第12巻で巻44までを載せています。

 編纂者は財団法人鈴屋遺跡保存会、つまり現在の本居宣長記念館ですが、どういうわけか当館では一部分しか収蔵されず、
『本居宣長全集』編纂者であった 故 大久保正先生も本文最終巻となる
巻12は刊行されなかったのだろうと言われていました。
 その大久保先生に、幻の本となっていた第12巻を示され、
少なくとも『古事記伝』については、全巻出ていたことを教示されたのが、 尾崎知光先生です。
 この度、尾崎先生から既刊分全12巻が本居宣長記念館に寄贈されました。
 問題の第12巻は昭和19年9月5日の刊行となっています。

 なぜ稀覯書となったのでしょう。
 尾崎先生はその間の事情を次のように推測、説明されます。

「第十二巻が完成し、出版され、販売ルートに乗ろうとするころには東京は空襲下に在り、大半の店々が焼け、本が店頭に飾られることはなく、そのため在京の学者にも知られず、宣長研究の人々なども第十二巻は未刊と後まで信じられていました。
 敗戦後焼け残った第十二巻は雑本として紙屑のような状態で世に出ましたが、国学が否定された当時、しかもそんな端本を買う人もなく、その存在さへ注目されませんでした。
 私はその紙屑本の中から第十二巻を拾い出し、二,三冊求めて、その中の一冊は自分の蔵書の最終巻として充当し、他は同学の人や学校に寄贈しました」

 首巻も目録も訂正古訓も全部載っていて、しかも文字も全集に比べると大きく(但し変体仮名)大変便利な本です。もっと普及すればよかったのにと、悔やまれます。

 しかし、まだ疑問が残ります。
最初から最後まで、刊記には「全十三巻」とある点です。
何を最終巻に載せるつもりだったのでしょうか。
編纂者は名前だけの編纂者ですから、何かの本をやはり影印で載せるつもりだったのでしょうが、ちょっと不思議です。

 寄贈者である尾崎先生に感謝申し上げます。

 

2005.11.21