宣長流 古典の楽しみ方 <3>   

3,峰の嵐か松風か 

 宣長の習った中には入っていませんが、「小督」(こごう)という謡があります。
高倉天皇と小督の悲恋の物語です。天皇の寵愛を受けたことで平清盛の怒りを買った小督局(こごうのつぼね)は嵯峨野に身を隠します。悲しみにうち沈む天皇、その命をうけて仲国が嵯峨野の夜道を行くとかすかに琴の音が。仲国も横笛を取り出しそれに唱和した。
 これが最初に語られたのは、『平家物語』です。
 そして謡曲に入り、一番最後は「黒田節」で、
「峰の嵐か松風か 尋ぬる人の琴の音か 駒をひかえて聞くほどに 爪音しるき相夫恋」

 京都にあこがれていた十代後半、宣長は京都に関する文献を片端からノートに書き写します(『都考抜書』〔1ケース〕)。見ているとくらくらするような小さな字です。『平家物語』から写した小督と仲国の話もあります。
 その後、宣長は医者の修行のため京都でしばらく暮らしますが、27歳(宝暦6年5月23日)に友人と連れだって高倉天皇の陵墓と、その脇にある小督局のお墓に参詣しています。

 晩年、宣長はこのエピソードを描いた絵(狩野遥信画)に歌を書き添えます。

  すむ月に すみのぼる夜の 琴のねは かくれしやども かくれなきまで

 月の冴えた夜に美しい琴の音。隠れていてもその場所は明らかだ、と言う歌です。

 


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