『音信到来帳』は宣長がもらったものの控えである。寛政7年からの分しかないが、それでも、諸国からの来訪者が多いだけに、中には、カステラやコンペイトウ、紅毛人筆扇、多賀城の古瓦など珍しいものや変わったものもある。寛政7年(1795)正月にもらいものから食品だけを抜き出してみよう。
阿波そうめん 1箱 阿波光善寺
蜂屋柿 1箱 (横井)千秋
はりま焼塩箱入 坂本屋善八
甘海苔 海蔵寺
尾張大根切ほし 大館左市(高門)
さからめ (栗田)ひちまろ
珍しいものをもらったら食べ方に困る場合がある。その点、宣長の知り合いはみんな丁寧だ。食べ方をきちんと指示してくれる。
安永7年(1778)年7月、伊勢内宮の神主荒木田経雅は宣長にそうめん1折を贈った。「当地産刀禰やそうめん」、当地名産と言うところだが、書簡ではその後に「件索麺調方」(件のそうめん調え方)という別称を設けて調理方法を教えている。
「先、醤(ヒシオ・味噌の仲間)の中に干かつをと蕃椒(トウガラシ)【五人前位の汁ならばとうがらし二十計入べし】の破れざる計(バカリ)を入て【破れたるを入る時はその汁辛(カラク)して食がたし】よくせんじ冷(サマシ)置べし
次、件のそうめんをゆでるなり、湯少くては不宜(ヨロシカラズ)、沢山にすべし、煮上り候はば、その後はそろそろ焚候而よくゆで、少し酒をも入べし、此そうめん胡麻油にて油少く製し候間、不洗にも食ひ、又洗ひても食す。久しくゆで、随分熱く致し、右の冷醤にて食すべし、なまゆでにては一向不宜、煮抜にすべし、煮事に飽候まま大凡にて食するより風味不宜」
今の言葉で言えば、
「醤の中に干しがつおと唐辛子、5人前なら20位入れてください。唐辛子の袋が破れていると辛くて食べられませんから注意してください。よく煮て冷まして置いてください。これが付け汁です。
次にそうめんのゆで方ですが、たっぷりのお湯で、一回煮立てて、その後は弱火でよく茹でてください。お酒を少し入れてもいいですね。このそうめんは胡麻油で作っていますから、油分が少ないので、水洗いはしてもしなくても結構です。しっかりと煮た上で、熱いのをよく冷やした付け汁で召し上がってください。煮るのが足りないとおいしくないですよ。しっかり煮てください。もういいやと適当に煮るとおいしくありませんから注意してください。」
見事なレシピだ。厳密な学問の経雅のような人は、そうめん一つもおろそかにしないと言うことだ。

経雅書簡「そうめんのレシピ」
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