このたび、志村史夫氏から、堀景山の書幅が寄贈されました。
景山は、『礼記』の一節、
「(君子は貴を辞し賤しきを辞せず、冨を辞し貧しきを辞せざれば、則ち乱は益亡し)故に、君子、其の食をして人に浮(す)ぎしめんや。むしろ人をして食に浮ぎしむ」
を選んでいます。意訳をすると、
「私の給料が少ないのは、私が偉大だということだ。見ろ、下らぬ奴ほど地位が高く俸給も多いじゃないか。君子というのはかくあるべきものさ」
となるでしょうか。
景山の学問や生活態度は、宣長の人格形成に計り知れない影響を及ぼしたことはよく知られています。
原文はなかなか重い言葉ですが、景山が書くと、その重みは消えて軽やかになります。実に景山らしい撰文です。
二重箱、内箱には「堀景山二行書」、裏には「鐵齋百錬題」と、富岡鐵齋の箱書があり、軸の価値を一層高めています。
ご寄贈下さった志村氏は、静岡理工科大学教授(現在・名誉教授)、ノースカロライナ州立大学併任教授です。
半導体結晶の領域では世界的な権威ですが、それに留まらず、IT論や、古代文明、自然哲学と、まさに宣長の言う「好信楽」を地でいくような先生です。
リニューアルオープンした記念館講座室で3月4日に、氏が主宰する
志望塾 寺子屋in松阪
を公開で開講していただき、その時の竣工記念のお祝い、また同月末の先生の退官を記念して、
特別な思いのあるこの軸を、ご寄贈下さったのです。
志村氏と景山の出会いは、学問の本格的なスタートとなる大学一年生の時に遡ります。
岩田隆先生の『不尽言』の講義を聴講し、景山の人格に共鳴され、深く関心を寄せられていたのです。
また、京都の人々が景山を評した、
「光を包みたる学者だ」
という表現も、物理学者として光の問題を考え続ける氏の興味を引く要因となったそうです。
今回の寄贈により、記念館の景山書幅は、合計4幅となりました。
この書軸は4月25日から、1階の〈旬コレケース〉で特別公開いたします。
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堀景山の書幅
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>>「堀景山」
(C) 本居宣長記念館
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